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文化人類学の再生産―慶應義塾大学の場合 鈴木正崇
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| 大学の制度において確固たる位置付けのない文化人類学に関して、慶應義塾大学ではどのような形で教育や研究が行われてきたか、今後はどのような方向性を目指すべきかなどについて考察して、記録に留めることにした。現在のところ、日本では文化人類学を専門に養成する大学や研究機関は極めて限られており、将来的にも同じような状況が続くと見られるので、研究者や学生に参考資料として提示し、今後のあり方も考えて頂くという意図がある。 | |||
| T、文化人類学の教育研究組織上の位置づけ | |||
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(1)文学部
@社会学専攻 A人間科学専攻 B東洋史専攻 C民族学考古学専攻 D国文学専攻 E日本史専攻・西洋史専攻・英米文学専攻 (2)法学部・経済学部・総合政策学部・環境情報学部・理工学部その他 経済学部では社会史の分野に研究者が集まっていて、地域研究を通じて人類学と連携している。主な研究者として、インドネシアの植民地研究の倉沢愛子、ラテン・アメリカの地域研究を進める清水透がおり、共同研究も行われている。中国の伝統演劇・芸能、特に皮影戯(影絵人形芝居)については千田大介が研究している。 湘南藤沢キャンパス(SFC)の総合政策学部では、野村亨がマレーシアの言語や地域研究、小熊英二がナショナリズムや近代日本の民族形成の考察を行っている。環境情報学部では奥出直人がアメリカ南部生活史研究、渡辺靖がアメリカ都市の人類学的研究、山本純一がメキシコ・チアパスの地域研究を進めている。矢上台キャンパスの理工学部のスタッフとしては、演劇やパフォーマンス研究の石井達朗、言語人類学・認識人類学を専攻する井上京子が講座を担当している。メディア・コミュニケーション研究所では、イギリス移民研究やカルチュラル・スタディーズの小川葉子が、ゼミを担当している。 (3)大学院社会学研究科 また、2007年度からは、グローバルCOE「論理と感性の先端的教育研究拠点形成」が採用され、「人文グローバルCOEプログラム哲学・文化人類学研究会」(宮坂敬造・北中淳子担当http://www.carls.keio.ac.jp/)が随時、シンポジウム、ワークショップ、研究会を開催し、大学院の講義にプロジェクト科目が設定されている。 修士課程の入試は1次が語学と専門、2次が面接である。後期博士課程の入試は、2005年度入試より、内部からの受験者には試験を免除し、修士論文の評価と面接で合否を決定することになった。但し、外部からの受験者には語学等の試験が課せられ、修士論文の評価と面接が合わせて合否が決定される。国立大学の大学院拡充の影響で、修士課程試験の志願者が減少したり、後期博士課程で国立系大学の大学院へ進学することがあったが、これによって改善が期待される。 博士号の取得については、後期博士課程の3年修了時に博士論文の研究計画書を出すことが義務付けられ、修了後3年以内に、博士論文を提出し学位を取得すること(課程博士)が目標になっている。但し、計画書は論文を学会機関誌に少なくとも1本、他に紀要などの学術雑誌に1本、最低でも計2本の論文が掲載されていることを条件として提出を認める。この条件を満たさない場合、課程博士ではなく論文博士による審査となる。論文博士での審査は常に開かれており、課程博士に拘泥することはないが、学識認定が課される。 2007年度の文化人類学・民俗学関係の担当者は、鈴木正崇、宮坂敬造、樫尾直樹、有末賢、関根政美、清水透、倉沢愛子、非常勤講師は和崎春日、中西裕二である。2007年度は特別講義として、アンヌ・ブッシイAnne Bouchy(宗教民俗学。フランス国立極東学院)、アラン・ヤングAllan Young(医療人類学。スタンフォード大学)が行われ、2008年度もカーマイヤー(医療人類学。マッギル大学)による集中講義が予定されている。過去の大学院の授業担当者には、松本信廣、中井信彦、櫻井徳太郎、鈴木孝夫、吉田禎吾、佐々木宏幹、末成道男、上田将、浜本満、真島一郎、白川琢磨、宮田登、藤井正雄、福田アジオ、松園万亀男、波平恵美子、阿部年晴、小松和彦、中牧弘允、野本寛一、渡辺公三、真野俊和、新谷尚紀、倉石忠彦、池上良正、大塚和夫、渡邊欣雄などがいる。 内容は、当初は宗教学や宗教民俗学が主体であったが、次第に宗教人類学に展開した。有賀喜左衛門による家族・村落研究、中井信彦による社会史や柳田國男論も影響を与えた。この大学院の特色は、以上の成り立ちからもわかるように、文化人類学と民俗学を融合していることにある。研究地域はアジアが多く、OBを含めると、朝鮮、中国、韓国、ベトナム、タイ、フィリピン、スリランカ、インド、バングラデシュ、ネパール、パキスタン、インドネシアなどであるが、アフリカでもカメルーン、ガーナ、コートディボワール、ナイジェリア、ケニア、ウガンダ、スーダンに関する研究者がいる。その他として、ミクロネシア、北アメリカ南部、中南米のハイチ、ブラジル、ボリビア、グアテマラ、メキシコの研究者も輩出している。日本研究は民俗学だけでなく、文化人類学の手法を取り込んでいる点に特色がある。民俗学や芸能史と接合して祭祀芸能の研究を行う者や、修験道を主体とする日本の民俗宗教の研究、あるいは海外の民俗宗教、特に東アジアや南アジアとの比較が試みられている。新宗教やスピリチュアリテイ研究も展開している。論文集としては、『哲学』第107集[特集:文化人類学の現代的課題](三田哲学会、2002)と『哲学』119集[特集:文化人類学の現代的課題U](三田哲学会、2008)があり、『人間と社会の探求:慶應義塾大学大学院社会学研究科紀要』にも多くの論文が掲載されている。 民俗調査の成果は、『修験集落八菅山』(愛川町、1978)、『修験者と地域社会―新潟県南魚沼の修験道』(名著出版、1981)、『伝統的宗教の再生―解脱会の思想と行動』(名著出版、1983)、『山の祭りと芸能』上・下(平河出版社、1984)、『コスモスと社会―宗教人類学の諸相』(慶應通信、1988)、『奄美伝統文化の変容過程』(国書刊行会、1989)、『宮古市史・民俗編』上・下(宮古市、1995)、『憑依と呪いのエスノグラフィー』(岩田書院、2001)、『鳥海山麓 遊佐の民俗』上・下(遊佐町教育委員会、2006)等で、各地の市町村史の編纂に携わる中で調査方法を覚えるというやり方をとっている。最近では、2003年度から3年にわたり山形県遊佐町の民俗調査を神田より子の指導で行い、多くの大学院生とOBが参加した。科学研究費補助金・基盤研究C「空間の表象に関する宗教民俗学的研究」(2006年4月〜2008年3月)で、OB中心の調査を行い、『哲学』119集(三田哲学会、2008)の中に「空間の表象」として成果がまとまっている。2008年度からは基盤研究C「道の宗教性と文化的景観」(2008年4月〜2011年3月)による新しい研究が開始される。また、福岡県篠栗町では、フランス国立極東学院との共同研究「日本の民俗社会におけるウチとソトの力学」(代表者:アンヌ・ブッシイ)を推進し、鈴木・中山・神田などは、巡礼・巫女・修験・祭礼などをテーマにして調査を継続中で、2011年まで続く予定である。 修了後の進路としては、多数の者が大学や研究機関で職を得ている。その状況は宮家準編『民俗宗教の地平』(春秋社、1999)で把握できる。主な就職先は、東京大学、東京外国語大学、東京都立大学(首都大学東京)、お茶の水女子大学、信州大学、埼玉大学、広島大学、名古屋大学、京都大学、徳島大学、弘前大学、長崎大学、国立歴史民俗博物館、東北学院大学、四国学院大学、福岡大学、広島修道大学、関西学院大学、専修大学、駒澤大学、近畿大学、神奈川大学、日本女子大学、江戸川大学、敬和学園大学、常盤大学、明星大学、大東文化大学、大妻女子大学、杏林大学、共立女子大学、高崎経済大学、神奈川工科大学、日本橋学館大学、武蔵野美術大学、国士舘大学、東横学園短期大学、萩国際大学、鹿児島女子大学、名古屋商科大学、高千穂大学、北海道東海大学、小松短期大学、金沢星陵大学、埼玉県立大学等である。但し、今後もこの傾向が続くかどうかは確証できない。 なお、大学院の文学研究科は主に東洋史、民族学考古学、国文学などの専攻から学生を受け入れ、外部からの受け入れも多い。文化人類学の専攻者の所属は史学専攻となる。現在の担当者として、吉原和男(東洋史特殊講義)と坂本勉(東洋史特殊講義演習)がおり、国文学専攻に野村伸一(芸能史)がいる。過去には松本信廣、伊藤清司、可児弘明、岩田慶治、大林太良、石川栄吉、高橋統一、野口武徳などが担当した。奄美の民俗調査を実習として行ったこともある。社会学研究科と比べると、就職者は多いとは言えないが、鈴木正崇は東洋史の博士課程修了後に、東京工業大学工学部人文社会群の助手を経て、社会学専攻の専任者となった。 社会学研究科と文学研究科との交流は、大学院生の間では、民族学・考古学、東洋史、日本史、国文学専攻との交流がある。広く文化人類学に興味を持つ者の集まりとして、慶應義塾大学人類学研究会があり、研究会や講演会を適宜行なっている。民俗学の研究会である木曜会では他大学の院生などとの交流を進めてきた。 (4)研究所 人類学関係の主な成果としては、近森正『クック諸島の研究―人間と先史社会』(慶應通信、1991)、可児弘明『香港および香港問題の研究』(東方書店、1991)、可児弘明編『華南―華人・華僑の故郷』(慶應通信、1992。『僑郷 華南―華僑・華人研究の現在』行路社、1996として再刊)、地域研究センター編『民族・宗教・国家』(慶應通信、1994)、宮家準・鈴木正崇編『東アジアのシャーマニズムと民俗』(勁草書房、1994)、柳田利夫編『アメリカの日系人』(同文館、1995)、鈴木正崇・金子量重・坂田貞二編『ラーマーヤナの宇宙―伝承と民族造形』(春秋社、1998)、可児弘明・国分良成・関根政美・鈴木正崇編『民族で読む中国』(朝日新聞社、1998)、鈴木正崇・野村伸一編『仮面と巫俗の研究―日本と韓国』(第一書房、1999)、吉原和男・鈴木正崇・末成道男編『<血縁>の再構築―東アジアにおける父系出自と同姓結合』(風響社、2000)、山本英史編『伝統中国の地域像』(慶應義塾大学出版会、2000)、吉原和男・鈴木正崇編『拡大する中国世界と文化創造―アジア太平洋の底流』(弘文堂、2002)、野村伸一編『東アジアの女神信仰と女性生活』(慶應義塾大学出版会、2004)、野村伸一編『東アジアの祭祀伝承と女性救済―目連救母と芸能の諸相』(風響社、2007)、The Chinese Expansion and the World Today,Center for Area Studies,1996などがある。なお、2006年4月〜から2008年3月まで14回開催された研究プロジェクト「東アジアにおける宗教文化の再構築」(代表者:鈴木正崇)の成果を近く刊行する予定である。
A言語文化研究所 Bアート・センター C斯道文庫
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| U、学生はなぜ、なにを期待して人類学を学ぶか、どのように学ぶか、学んでどうするか? | |||
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学部では、文化人類学の学説の研究や民族誌の読み込みや作成などよりも、現実に起こっている身近な事例を研究する傾向があり、考現学や風俗学の領域に及ぶことが多い。学部において繰り返し取り上げられる主題としては、民族問題、脳死・臓器移植、ホスピス、外国人労働者、在日韓国朝鮮人などがある。文化人類学や日本民俗学を専門に研究するというよりも、指導教授の個性に合わせてゼミを選択し、かなり自由に主題を選ぶ傾向がある。就職は様々で、特に文化人類学との強い繋がりがあるわけではない。 大学院の修士課程では自分の目標が何かを明確に判断している者はさほど多くない。調査をすることで目覚めるか、専門論文をかなり読んだ時点で気づくことが多い。学部の専攻が様々なので、文化人類学の基礎的な文献に眼をとおしていない。古典よりは現代のもてはやされているものを追いかけて、結局は何をしたらよいのかわからなくなる。修士論文にはフィールドワークを踏まえた事例研究が多いが、2年間ではやや無理かと思われる傾向がある。後期博士課程の入試は、内部進学者に関しては語学の試験を免除して、修士論文の評価と面接で合否判定を行う。論文重視で、修士課程と後期博士課程の連続性が強まっていると言える。 後期博士課程では、研究主題は文化人類学や民俗学に限定され、宗教にからむものが大半を占めるようになる。但し、国立大学・公立大学の大学院博士課程へも進学しており、東京大学・一橋大学・首都大学東京などに在籍者がいる。その理由はフィールドの違いや将来の就職可能性の高さを求めてである。研究者として大学などへの就職を希望する者が多いが、質の高い現地調査をどれだけ行ったかによるといっても過言ではない。 慶應義塾大学の研究と教育について、以下の点を評価として指摘することが出来よう。 長所
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| V、博士論文・修士論文一覧 | |||
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鈴木が担当するようになった1986年以降の博士論文と修士論文の一覧を掲げておく。修士論文は文化人類学、社会人類学、民俗学、宗教学に関するものが大半で、博士論文は宗教人類学か宗教民俗学に限定される。この内容から慶應義塾大学における文化人類学の再生産がどのように行われてきたかを知ることが出来る。
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| W、卒業論文一覧 | |||
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鈴木が文学部社会学専攻のゼミで担当した1986年以降の資料である。一貫して多岐にわたる主題が選ばれている。
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